薄暗い部屋に、アルコールの香りが漂っていた。
散らばった空き缶とグラス、微かに流れる音楽。
その中で、沙月(さつき)は笑顔を浮かべながらグラスを揺らしていた。
「もうちょっと飲もうよ。今日は久しぶりに会えたんだからさ。」
沙月の声はいつもより甘く、そして少しだけ酔いが回っているようだった。
「いや、俺はもう無理だって。明日動けなくなる。」
直人(なおと)は苦笑いしながら手を振る。
沙月とのこうした飲み会は、大学時代からの習慣だ。
気のおけない幼馴染との時間は楽しい。
それでも、今日はどこか違う雰囲気が漂っていた。
沙月はソファに寝転がるように座り込み、顔を赤らめたまま直人を見上げた。
「直人ってさ、全然変わらないよね。そういう真面目なとこ、昔から。」
「まあな。でも、沙月だって変わってないよ。むしろ少し落ち着いたんじゃないか?」
「えー?そうかなぁ?」
そう言いながら、沙月は身を乗り出して直人に近づいた。
ふとした仕草で肩が触れ、直人は思わず視線を外す。
「おい、酔いすぎだぞ。」
「大丈夫、大丈夫。これくらい平気だって。」
沙月の笑顔は、どこか挑発的で、無邪気なようで少しだけ計算が入っているようにも見えた。
そんな沙月に直人はどう接すればいいのか迷う。
しばらく飲み続けるうちに、沙月はさらに近づいてきた。
そして、酔いも手伝ってか、そのまま直人の肩にもたれかかるように倒れこんだ。
「おい、大丈夫か?」
「んー……直人ってさ、ほんと優しいよね。」
呟くような声が耳元に響く。
直人はその近さに顔を赤くしながらも、彼女を支えるように軽く肩に手を置いた。
だが、彼女はそのまま力を抜いて身を預け、目を閉じ始めた。
「寝るなよ、ここで。」
しかし、その言葉に反応することなく、沙月は静かに呼吸を整え始めた。
直人はため息をつき、仕方なく彼女を横に寝かせようと動かす。
すると、沙月がぽつりと何かを呟いた。
「……これで……少しだけ……お互いのことがわかるかもね……」
その言葉の意味を考える間もなく、直人の意識も酒の勢いに負けて薄れていった。
目が覚めたとき、直人は身体中に妙な違和感を覚えた。
柔らかい感触、手に触れる肌の滑らかさ。
自分が寝ていたはずの布団も見当たらない。
「……なんだこれ?」
ぼんやりと視界を見回した彼の目に飛び込んできたのは、鏡に映る沙月の姿だった。
だが、それは間違いなく直人自身だった。
「お、俺、沙月になってる!?」
声を上げた瞬間、その声も自分のものではないことに気づく。
高く澄んだ声は、完全に沙月のものだった。
「おー、起きた?」
部屋の隅から響く男の声。そこには、直人の姿をした沙月が立っていた。
「な、なんで俺たち、こうなってるんだ!?」
「ふふっ、面白いでしょ?昨日の夜、ちょっと魔法をかけてみたの。」
沙月は、自分の姿である直人を見て楽しそうに笑った。
「魔法って……そんなこと、本気で言ってるのか?」
「うん。昔から少しだけ特別な力があってさ。でも、こんなにちゃんと入れ替わるのは初めてかも。」
直人は呆然としたまま、鏡に映る自分――いや、沙月の姿をもう一度見た。
「これ、どうやって戻るんだよ。」
「まあまあ、すぐには戻さないよ。せっかくだから、少し遊ぼうよ。」
沙月は、直人の姿で肩をすくめながら笑った。
そして、直人が困惑している隙に手を取り、鏡の前に立たせる。
「ほら、女性の体ってこんな感じなんだよ。ポーズとか、いろいろやってみて。」
沙月が直人の身体を使って軽く笑いながら言う。
「いや、やってみろって言われても……」
直人は鏡の前で立ち尽くし、映る自分――沙月の身体――に戸惑っていた。
自分の意識とは裏腹に、女性らしい華奢な肩や曲線のあるラインがそこにある。
それをどう扱っていいのか全く分からない。
「ほら、例えばこうやって。」
沙月は自分の――いや、直人の身体を使いながら大胆なポーズを取る。
腰を落とし、腕を伸ばして力強いポーズを決めるその姿は、まるでモデルかアクション俳優のようだった。
「おい、俺の体でそんな変なポーズするな!」
「変じゃないって!かっこいいでしょ?」
沙月は笑いながら次々とポーズを取っていく。
その様子に、直人は思わず呆れながらも、少しずつ沙月のペースに巻き込まれていった。
「じゃあ、次は私の番ね。女性らしいポーズ、ちゃんとやってよ。」
沙月の言葉に直人は眉をひそめる。
「女性らしいポーズって……どうやるんだよ。」
「こうやって。」
沙月は、手本を見せるように自分――つまり直人の身体で軽く腰をひねり、片手を髪に当てる仕草を見せた。
それは、女性らしい優雅なポーズだったが、直人の姿でやると妙にぎこちなくて笑える。
「お前、俺の体でやるならもう少し上手くしろよ。」
「じゃあ、直人がやってみてよ!」
直人は渋々沙月の真似をしてみる。
しかし、慣れない動きに思わず足がもつれそうになる。
「ちょっと、それっぽくなってきたじゃん!」
沙月は楽しそうに笑いながら、さらにリクエストを投げかける。
「じゃあ、次はもっと可愛いポーズ!」
「勘弁してくれよ……」
そう言いつつも、直人は言われるがままに手を頭の上で丸めたり、軽くウィンクをしたり、次第に沙月の要求に応えるようになっていた。
そんなやり取りが続く中、直人はふと気づく。
目の前で自分の身体を使い、自由に動き回る沙月。
彼女の言動は変わらず軽妙だが、その視線がどこか妙に落ち着かない。
「……おい、なんかお前、変じゃないか?」
「え、何が?」
沙月は軽く視線を逸らしたが、明らかに動揺しているようだった。
そして、直人はすぐにその原因に気づく。
「もしかして……お前、俺の身体で興奮してるんじゃないか?」
「ち、違うってば!」
そう否定する沙月の声には、いつもの余裕はなかった。
直人の身体が反応していることを隠そうとするように、沙月はぎこちない動きで視線を逸らす。
「お前……自分でやらせといて……何してんだよ。」
「だ、だって仕方ないじゃん!男の身体ってこういうものでしょ!?」
沙月の必死な言い訳に、直人は思わずため息をついた。
そして、自分も少し冷静さを失っていることに気づく。
自分の身体が目の前で動き、そこに沙月の意識がある。
それなのに、沙月の身体にいる自分がどうしてもその状況を気にしてしまう。
この奇妙な感覚は、友情の一線を超えてしまいそうな危うさを含んでいた。
「……もうやめよう。」
直人はそう呟き、静かに鏡の前から離れた。
やがて、沙月は満足したように「じゃあ、そろそろ戻る?」と言った。
再び呟かれる不思議な言葉と共に、二人の身体は元に戻る。
「これで一安心だな……」
直人は自分の手を見つめ、ようやく落ち着きを取り戻す。
「でもさ、どうだった?少しは女の子の気持ち、わかったんじゃない?」
沙月は笑いながら言うが、その声には少しだけ照れくささが含まれていた。
「……まあ、色々と大変なんだなってのはわかったよ。」
「ふふ、それだけでも成果ありだね。」
二人は照れ隠しのように軽口を叩き合いながらも、先ほどの出来事が心のどこかに引っかかっていた。
「またさ……いつかやってみる?」
沙月が冗談めかして言うと、直人は少し困ったように眉を上げた。
「お前はほんとに懲りないな。」
「だって楽しいじゃん?」
そう言いながら、沙月はどこか寂しげな笑みを浮かべた。
その表情に直人の胸が微かにざわつく。
「……まぁ、機会があればな。」
直人はわざとそっけなく答えながら、いつもと同じように見える沙月の仕草にどこか違う感情を抱いている自分に気づくのだった。
気を許す仲ならこういうのもありかな?
こんな写真撮ってるので、ポーズならいくらでも取ります!
でも、酔って絡んでくる娘って周りにいなかったしな。
酔いとは別枠で拘束してくるのはいたけど。
ただ単にストレス発散の相手にされてたな。
しかもお触りはなしです。
奴らは真っ当な男性と結婚しました。
遊ばれた?
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