最後の挑戦【女装】 - 女装写真をイラストに

共通テストも終わり、悠真は自室の机に座り、ぼんやりと進路資料を眺めていた。志望校への進学が決まり、もう何も心配する必要はなかった。ただ、心の奥底に消化できない思いがずっと引っかかっていた。

「このまま、高校生活を終えるのか……」

窓の外には穏やかな冬空が広がっている。悠真は、自分の胸の内にずっと隠してきた思いを振り返っていた。誰にも話せなかったが、自分は女装に興味があった。初めてそれに気づいたのは中学生の頃。女物の服を見るたび、「着てみたい」という感情が湧き上がったのだ。しかし、それを打ち明ける勇気はなく、高校生活も何事もなく終わろうとしていた。

その夜、姉の美月がふと声をかけてきた。

「悠真、何か悩んでるの？最近、なんだか元気ないよね。」

「えっ、いや……別に……」

視線をそらしながら答えるが、美月はじっと悠真を見つめてくる。

「本当に？小さい頃から、悠真の考えてることくらいわかるんだからね。」

悠真は一瞬ためらったが、美月に隠し通すのは難しいことを悟った。深く息を吸い込み、口を開く。

「……卒業式で、女装したいんだ。」

美月は一瞬目を丸くしたが、すぐに柔らかな微笑みを浮かべた。

「そっか……。悠真が女装に興味あるのは、なんとなく気づいてたけど。卒業式でやりたいなら、全力で手伝うよ。」

「え、本当に？」

「もちろん！最後なんだから、思い切りやっちゃいなよ！」

その言葉に、悠真は胸が少し軽くなった気がした。

数日後、姉の美月に連れられて訪れた着物店。悠真は緊張で口をパクパクさせながら、色とりどりの着物が並ぶ店内に足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ！今日はどのような着物をお探しですか？」

店員の女性が笑顔で声をかけてくる。美月がすかさず答えた。

「弟の卒業式用に袴を探してるんです。」

「……弟さん？」

店員は一瞬目を丸くしたが、すぐに微笑んで続けた。

「素敵ですね。ぜひご試着ください。」

悠真は思わず頬を赤らめた。

「……いいんですか、僕が着ても？」

「もちろんです。卒業式に何を着るかは自由ですから。どんなお色がよろしいですか？」

美月が軽く背中を押してくれたおかげで、悠真は恐る恐る淡いピンク色の袴を指差した。

「これ……いいかも。」

「素敵な選択ですね。では、こちらでご試着なさいますか？」

フィッティングルームに案内されると、店員が着付けを始めてくれた。悠真は慣れない感触に戸惑いながらも、次第に鏡の中で変わっていく自分に見入った。

「すごい……」

初めて見る、女性のような自分。ウィッグと淡いメイクまで施され、完全に「もう一人の自分」が現れた。

フィッティングルームを出ると、美月が目を輝かせて言った。

「悠真、めっちゃ可愛い！ていうか、似合いすぎでしょ！」

悠真は顔を赤らめながら、少しうつむいた。

「そんなことないよ……」

「いやいや、こんなに似合うんだから、もっと自信持ちなよ！」

店員も頷きながら微笑んでいた。

「本当にお似合いです。弟さん、とても綺麗ですよ。」

その言葉に、悠真は少しだけ胸を張ることができた。

帰り道、美月が突然立ち止まり、真剣な顔で言った。

「ねえ、悠真。女装って、外見だけじゃないと思うんだよね。」

「え？」

「せっかく袴を着るんだから、下着とかもちゃんと女性物を揃えた方がいいんじゃない？」

「下着まで……？」

悠真は目を見開いたが、美月は悪戯っぽく笑った。

「ほら、見えないところからしっかり準備するのが本物でしょ？」

「そ、そんなの恥ずかしいよ！」

「でも、絶対その方が気分も乗るって。大丈夫、私が選んであげるから。」

結局、美月に押し切られ、下着屋にも立ち寄ることになった。悠真は恥ずかしさで顔が真っ赤だったが、美月が楽しそうに選んでくれたおかげで、次第にその気になってきた。

ついに迎えた卒業式の日。袴と一緒に揃えた下着を身につけたことで、悠真は「女性になりきっている」感覚を初めて味わっていた。鏡の中の自分を見て、小さく頷く。

「よし……行こう。」

校門に到着すると、やはり注目を浴びた。同級生たちが驚きの表情を浮かべながら集まってくる。

「え、相原！？それ、お前なのか？」

「お前……めっちゃ似合ってるじゃん！」

「ていうか、めっちゃ可愛い！」

最初は怖かったが、次第に周囲の反応に安堵し、笑顔を浮かべるようになった。

「ありがとう。実は、ずっとこうしてみたかったんだ。」

誰かが拍手を始めると、それが徐々に広がり、悠真は涙を浮かべた。

「よかった……やってよかった……」

悠真はこの日、初めて自分を解放し、新しい一歩を踏み出すことができた。