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綾乃はある日、家政婦に用意された夕食にも手をつけず、豪邸のバルコニーで夜景を眺めていた。
「こんな生活、もううんざり……自由が欲しい」
ふと視界に入ったのは、義母から譲り受けたアンティークのペンダント。
古ぼけた装飾品には、「願いを叶える」という言い伝えがあった。
半信半疑でペンダントを握りしめ、綾乃は心の中で願った。
「自由になりたい。束縛のない生活を……」
その瞬間、眩しい光が辺りを包み込んだ。
そして次に目を覚ましたとき、彼女の目に映ったのは……薄暗いアパートの天井だった。
綾乃が目覚めたのは、悠真の部屋だった。
狭い6畳一間、乱雑に置かれた服や、使いかけのカップ麺が彼女の目に飛び込んでくる。
鏡を見るとそこには見知らぬ男性の顔。
自分の体が入れ替わったことに気づき、驚愕する。
「嘘でしょ……これが自由? こんなのただの貧乏生活じゃない!」
動揺しながらも、目の前のスマホを見ると「田中悠真」と記された通知がいくつも届いていた。
「この人が本当の持ち主ね……早く会って元に戻らなきゃ!」
一方、悠真も豪邸で目覚め、同じように混乱していた。
鏡に映る美女の姿に目を奪われつつも、全身が自分のものではないと気づき、慌てて綾乃のスマホを使って連絡を取った。
綾乃の豪邸に訪れた悠真は、初めは目を輝かせていた。
大理石の床、高級家具が並ぶリビング、専属の執事と家政婦。
こんな世界があるのかと驚愕する。
しかし、それも束の間だった。
執事に手渡された分厚いスケジュール帳には、びっしりと予定が詰まっている。
「えっ、今日これ全部こなすの?」
慈善パーティーで笑顔を振りまき、雑誌のインタビューで完璧な受け答えを求められる。
さらに、美容サロンや習い事も次々と予定に組み込まれていた。
初めてのパーティーでは、悠真は周囲の人々に気を使われ、「さすが綾乃さん」とおだてられるものの、内心では疲労感が募るばかりだった。
「これがセレブの生活か……全部見栄と形式ばかりじゃないか」
そして夜、自室に戻った悠真はため息をつく。
「自由どころか、こんなに縛られるなんて……俺の生活のほうがよっぽどマシだったのかもな」
一方の綾乃は、自由を求めて悠真の生活を満喫しようとしていた。
「これで好きなことができるわ!」と外に出たものの、財布に入っていたのはわずか3000円。
高級ブランド店に入りたいと思っても、店員にじろじろ見られ、結局ファミレスに入るしかなかった。
「これが自由? 全然楽しくない……」
さらに、悠真のスマホには会社からの電話がひっきりなしに鳴り響く。
なんとか電話を取ってみても、仕事の専門用語や進行状況を聞かれ、返答に詰まる。
「ええと、その……確認しますので少々お待ちください……」
仕事に追われる現実、自由を謳歌するどころではなかった。
夜、疲れ果てて部屋に戻った綾乃は、冷たいカップ麺をすすりながら独り言を呟いた。
「こんな生活、これ以上続けられない……自由って、こんなに大変だったのね」
数日後、二人は街中のカフェで再会した。
お互いの顔を見て、どちらからともなくため息がこぼれる。
「セレブの生活って、全然自由じゃなかった」悠真が口を開いた。
「表向きは豪華だけど、実際は他人の期待と義務に縛られるばかりだったよ」
綾乃もうなずく。「平凡な生活もそう。自由に見えて、お金や仕事がなければ何もできない。結局、自由って幻想みたいなものなのね」
しばらく無言になった後、悠真が笑いながら言った。
「でも、これで少しは自分の生活に感謝できそうだよ。地味だけど、自分らしく生きられるって大事だな」
綾乃も微笑みながら続けた。
「私も、周囲に期待されていることを当たり前だと思いすぎていたわ。もっと自分の時間を大切にしたい」
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お金をたくさん持ってる人ほど、大変な仕事をしないといけない。
昔はそう思ってましたが、今はそうでもないですね。
むしろ高給取りの方が仕事がヌルい。
低賃金はこき使われる。
高給取りにはきっちり働いてもらいたいですね。
口動かして手を動かさない、責任取らないやつは邪魔です。
仕事への愚痴なんですが、政治家も似たようなものか?
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