「おい、もうちょっと急げよ。集合時間過ぎてんだろ!」
明るく快活な声に振り向くと、見慣れた彼女の顔がそこにあった。
クラスメイトの真由(まゆ)は髪をポニーテールにまとめ、制服の上にジャージを羽織っている。
その手にはレポート用紙が数枚握られていた。
「ああ、悪い。少し寝坊したんだ。」
俺、悠斗(ゆうと)は気まずそうに笑いながら、肩に掛けていたバッグをぎゅっと握りしめた。
今日は学校のプログラムで行われる職場体験の初日。
真由と俺は偶然同じ施設を割り当てられたのだが、正直言って気まずい。
真由とは特別仲が良いわけでも悪いわけでもない。
ただ、彼女はしっかり者で、成績も優秀。
それに比べて俺は、何をやっても中途半端で、彼女に「ダメ男」と言われたこともある。
「あんたのせいで遅刻したって言われたくないからね。ちゃんとしてよ。」
真由の鋭い一言に、俺は小さくため息をついた。
職場体験先は地域の介護施設だった。
明るいロビーには高齢者が数名座って談笑している。
施設のスタッフが忙しそうに行き来しており、和やかな雰囲気だが、どこか張り詰めた空気も感じられる。
初日ということもあり、俺も真由も少し緊張気味だ。
施設長らしき女性が俺たちを迎え入れ、簡単な説明をしてくれた。
「それでは、今日の体験はお二人に分担してもらいますね。
佐藤さん(真由)は、こちらのレクリエーションのお手伝いをお願いします。
そして宮本君(俺)は、車椅子の移動補助や掃除などをお願いできますか?」
真由は即座に「はい」と元気よく返事をし、俺は少し間を置いて「わかりました」と答えた。
真由が俺を一瞥し、「やる気あんの?」という顔をしていたのを見逃さなかった。
午前中の作業は比較的スムーズに進んだ。
俺は言われた通り、車椅子の移動や軽い掃除をしていたが、正直、真由のほうが楽しそうに見えた。
彼女は笑顔で高齢者たちと談笑し、レクリエーションの進行を手伝っている。
その姿に少しイラっとした自分がいた。
昼休み、俺たちは控室で一息ついた。
真由は持参したお弁当を広げ、俺はコンビニで買ったサンドイッチを手にしていた。
「やっぱり、こういうのって向き不向きあるよね。私、結構こういう場所好きだな。」
真由が楽しそうに言う。
「そうか?俺はなんか、気を使いすぎて疲れる。」
正直な感想を言うと、真由は少し驚いた顔をした。
「へえ、意外。悠斗って、そういうの気にしないタイプかと思ってた。」
「いや、さすがにこういう場所じゃ、失礼できないだろ。」
真由は少し微笑んだが、特に何も言わなかった。
そのときだった。部屋の電灯が一瞬、チカチカと点滅し、不思議な音が耳に響いた。
「なに、今の?」
真由が戸惑いながら立ち上がった瞬間、俺は急激なめまいに襲われ、意識を失った。
気がつくと、目の前には見慣れた光景が広がっていたが、何かが違う。
俺は座ったまま、自分の手を見て驚愕した。
細く、しなやかな指。
俺のものではない。
「ちょっと、なんで私がそこにいるの!?」
驚いた声が耳に入ると、振り返った先に俺自身の姿が立っていた。
「…え?真由?」
「うそでしょ。なんで悠斗の中に私が…?」
俺たちは、明らかに身体が入れ替わっていた。
最初はお互いに混乱し、パニックになったが、周囲の目を考え、必死で冷静を装った。
午後の作業が始まる時間になり、仕方なくお互いの振りをすることにした。
「いい?変なことしないでよ。私の評価が下がったら許さないから。」
真由(俺の身体)が念を押す。
「わかったよ。お前だって、俺の振りちゃんとしてくれよ。」
お互い不安を抱えたまま、それぞれの役割をこなすことになった。
俺(真由の身体)は、レクリエーションの進行役をすることになった。
最初は何を話していいかわからなかったが、真由の身体には妙な親しみやすさがあった。
高齢者たちは笑顔で話しかけてくれ、「お嬢ちゃん、しっかりしてるねえ」と褒められたとき、少し嬉しかったのが悔しかった。
一方、真由(俺の身体)は、慣れない力仕事に苦戦しているようだった。
掃除用具を手に持ちながら、スタッフに指示を仰ぐ姿は、俺から見ても情けない。
終業時間が近づくころ、控室に戻った俺たちは、疲れ切っていた。
「お前、ほんとに俺の身体で不器用だな。」
俺が茶化すように言うと、真由は眉をひそめた。
「しょうがないでしょ!あんた、普段どれだけ力使ってるのよ…。腕がパンパンだし、腰も痛い。」
「そっちだって、意外と楽しかったぞ。お前の身体、愛嬌あるからみんな優しかった。」
真由は一瞬黙り込んだが、少しだけ笑った。
「まあ、そっちの仕事も悪くないかもね。」
その夜、不思議な光景の中で再びめまいが襲い、俺たちは元に戻った。
翌日、学校で真由と顔を合わせたとき、少しだけ彼女との距離が縮まった気がした。
「次からは、ちゃんと遅刻しないでよ。」
彼女の言葉に、俺は「了解」と笑って答えた。
介護関係って、男性の力があった方がやりやすそうですが
女性の方が親しみやすいかなとは思います。
中身が外側に引きずられるかは不明ですがどうなんでしょう?
とりあえず入れ替わった時点でボディチェックしたい。
今回は写真と文があんまり合ってないな。。。
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